横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)4号 判決 1988年12月21日
原告 株式会社保土ヶ谷ビル 外一名
被告 横浜市保土ケ谷区長
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 第一事件
(原告)
被告が原告に対し昭和五八年七月二日付けでした事業所税更正決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文同旨
二 第二事件
(原告)
被告が原告に対し昭和五八年七月二日付けでした事業所税更正決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
主文同旨
第二当事者の主張
一 第一事件原告株式会社保土ヶ谷ビル(以下「原告保土ヶ谷ビル」という。)の請求原因
1 原告保土ヶ谷ビルは別紙物件目録記載の建物(以下「本件ビル」という。)の三階部分(以下「本件甲家屋」という。)の建築主であり、右家屋は昭和五六年一一月四日(不動産登記簿上に記載の新築日)完成した。
2 原告保土ヶ谷ビルは被告に対し、昭和五八年六月二〇日左記のとおり新増設にかかる事業所税(以下「新増設事業所税」という。)の申告(以下「本件甲申告」という。)をした。
新増設事業所床面積 七六六・三〇平方メートル
非課税床面積 二五〇・二二平方メートル
控除床面積 一六九・七二平方メートル
課税標準 三四六・三六平方メートル
税額 二〇七万八一六〇円
3 被告は原告保土ヶ谷ビルに対し、同年七月二日左記のとおり事業所税更正の決定をした(以下「本件甲処分」という。)。
新増設事業所床面積 八三六・七六平方メートル
非課税床面積 一四四・四一平方メートル
控除床面積 〇平方メートル
課税標準 六九二・三五平方メートル
税額 四一五万四一〇〇円
4 そこで、原告保土ヶ谷ビルは横浜市長に対し、昭和五八年八月三一日審査請求をしたが、同市長は同五九年一〇月一一日棄却の裁決をした。
5 しかしながら、以下に述べるとおり本件甲処分は違法であるから取り消されるべきである。
(一) 本件ビルは、第二事件原告保土ヶ谷再開発株式会社(以下「原告保土ヶ谷再開発」という。)が、都市再開発法に基づく保土ヶ谷市街地再開発組合の設立認可までの間再開発事業を行うこととして、同法二条六号の規定に準拠する施設建築物を建築する事業計画のもとに建築を進めたものであり、原告保土ヶ谷ビルは、右地権者かつ組合員であり、本件甲家屋を取得する建築主であった。
ところが、右再開発事業の途中から横浜市が右事業に非協力となり、後には建築工事の妨害までするに及んだため、結局、右事業について神奈川県知事の認可が下りないまま本件ビルが完成した。
右経過に徴すれば、本件ビルは、都市再開発法に基づく建築物には当たらないものの、同法二条六号の規定する施設建築物に準ずるものであるというべきで、地方税法(以下「法」という。)七〇一条の三四第八項三号所定の施設建築物に該当する。
したがって、本件ビルは新増設事業所税の課税されない建築物であり、原告保土ヶ谷ビルに同税の納付義務はない。
(二) また、本件甲家屋の事業所床面積は七六六・三〇平方メートルで、同条の四三第三項所定の免税点である二〇〇〇平方メートル以下であるから、この点からしても、原告保土ヶ谷ビルに新増設事業所税の納付義務はない。
(三) 以上のとおり、本件ビルは新増設事業所税の課税されない建築物であって、原告保土ヶ谷ビルには同税の納付義務がないところ、同原告は、被告から同税の納付義務があるとしてその申告をするよう強制され、止むなく本件甲申告をしたものであるから、右申告は無効である。
(四) 仮に、本件甲家屋について原告保土ヶ谷ビルに新増設事業所税の納付義務があるとしても、以下に述べるとおり本件甲処分は違法である。
(1) 新増設事業所床面積について
新増設事業所床面積は七六六・三〇平方メートルであって、本件甲処分にいう八三六・七六平方メートルではない。
(2) 非課税床面積について
被告が二分の一非課税とした本件甲家屋の廊下部分は、地方税法施行令(以下「令」という。)五六条の四三第三項五号イの避難通路に該当するから、全部非課税である。
また、本件甲家屋のうち、階段、ホール、エレベーターシャフト、パイプスペース等は、本件ビルの共用部分で主に四階以上の居住用部分の使用に供するものであるから、事業所の床面積として算入するべきでなく非課税である。
なお、被告の後記主張に従っても、非課税床面積は一四五・八六平方メートルとなるはずである。
(3) 控除床面積について
原告保土ヶ谷ビルが従前所有していた事業所用家屋(総床面積一六九・七二平方メートル)を取り壊したのは昭和五四年一月一〇日であるから、法七〇一条の四一第三項に定める二年の期間は、同五六年一月一〇日までとなるところ、同五五年七月一〇日付け横浜市建築局長の建築工事中止勧告に始まり、同年一一月七日付け、同年一二月二六日付け及び同五六年五月一〇日付けの各横浜市長の建築工事中止命令に及ぶ横浜市の一連の違法な行政行為により、本件ビルの建築工事は同五五年七月一〇日から同五六年五月一〇日頃までの約一〇か月間停止した。右工事停止期間中右法定期間の進行は停止されるというべきであるから、右法定期間の終期は同五六年一一月一〇日となる。
しかして、原告保土ヶ谷ビルは同月四日に本件甲家屋を新築取得しているから、従前所有していた事業所用家屋の床面積一六九・七二平方メートルの控除がされるべきである。
6 よって、原告保土ヶ谷ビルは本件甲処分の取消しを求める。
二 原告保土ヶ谷再開発の請求原因
1 原告保土ヶ谷再開発は本件ビルの地下一、二階、一階及び四階の各部分(以下「本件乙家屋」という。)の建築主であり、右家屋は昭和五六年七月一九日(不動産登記簿上に記載の新築日)完成した。
2 原告保土ヶ谷再開発は被告に対し、昭和五八年六月一〇日左記のとおり新増設事業所税の申告(以下「本件乙申告」という。)をした。
新増設事業所床面積 二三三三・一二平方メートル
非課税床面積 九六四・一三平方メートル
控除床面積 五七八・九三平方メートル
課税標準 七九〇・〇六平方メートル
税額 四七四万〇三六〇円
3 被告は原告保土ヶ谷再開発に対し同年七月二日左記のとおり事業所税更正の決定をした(以下「本件乙処分」という。)。
新増設事業所床面積 三〇七四・七六平方メートル
非課税床面積 五八三・二三平方メートル
控除床面積 〇平方メートル
課税標準 二四九一・五三平方メートル
税額 一四九四万九一八〇円
4 そこで、原告保土ヶ谷再開発は横浜市長に対し、昭和五八年八月三一日審査請求をしたが、同市長は同五九年一〇月一一日棄却の裁決をした。
5 しかしながら、以下に述べるとおり本件乙処分は違法であるから取り消されるべきである。
(一) 本件ビル建築の経緯は前記一5(一)のとおりであり、原告保土ヶ谷再開発は、再開発事業の施行地区内の地権者かつ組合員であり、本件乙家屋を取得する建築主であった。
右経過に徴すれば、前記主張のとおり本件ビルは、都市再開発法に基づく建築物には当たらないものの、同法二条六号の規定する施設建築物に準ずるものであるというべきで、法七〇一条の三四第八項三号所定の施設建築物に該当する。
したがって、本件ビルは新増設事業所税の課税されない建築物であり、原告保土ヶ谷再開発に同税の納付義務はない。
(二) 右のとおり、本件ビルは新増設事業所税の課税されない建築物であって、原告保土ヶ谷再開発には同税の納付義務がないところ、同原告は、被告から同税の納付義務があるとして申告をするよう強制され、止むなく本件乙申告をしたもので、右申告は無効である。
(三) 仮に、本件乙家屋について原告保土ヶ谷再開発に新増設事業所税の納付義務があるとしても、以下に述べるとおり本件乙処分は違法である。
(1) 本件乙家屋の四階部分(以下「四階部分」というように単に階数をもって記載するときはいずれも本件ビルの各階をいう。)について
四階部分は居住用であるから原告保土ヶ谷再開発に新増設事業所税を納付する義務はない。
また、同部分は分譲販売する処分床であって、原告保土ヶ谷再開発が取得した固有の部分ではない。
(2) 新増設事業所床面積について
仮に、被告主張の区分に従って算定すると、四階部分を除く本件乙家屋の新増設事業所床面積は、地下二階六四二・〇五平方メートル、地下一階七〇〇・三九平方メートル、一階七四三・七九平方メートルの合計二〇八六・二三平方メートルである。
(3) 非課税床面積について
被告が二分の一の非課税とした本件乙家屋の廊下部分は、令五六条の四三第三項五号イの避難通路に該当するから、全部非課税である。
仮に、被告主張の区分に従って本件乙家屋(四階部分を除く)の非課税床面積を算定すると、地下二階一七六・四四五平方メートル、地下一階一〇七・三六平方メートル、一階二一六・二二五平方メートルの合計五〇〇・〇三平方メートルである。
(4) 控除床面積について
原告保土ヶ谷再開発が従前所有していた事業所用家屋(総床面積五七八・九三平方メートル)を取り壊したのは昭和五四年一月一〇日であるから、法七〇一条の四一第三項に定める二年の期間は、同五六年一月一〇日までとなるところ、前記一5(四)(3)と同様の理由により、右法定期間の終期は同五六年一一月一〇日となる。
しかして、原告保土ヶ谷再開発は同年七月一九日に本件乙家屋を新築取得しているから、従前所有していた事業所用家屋の床面積五七八・九三平方メートルの控除がされるべきである。
6 よって、原告保土ヶ谷再開発は本件乙処分の取消しを求める。
三 被告の答弁
1 原告保土ヶ谷ビルの請求原因1ないし4記載の各事実はいずれも認める(但し、本件ビルの建築完成は昭和五六年一二月二一日である。)。
2(一) 同5(一)の主張は争う。
(二) 同5(二)のうち、本件甲家屋の事業所床面積が二〇〇〇平方メートル未満であることは認めるが、主張は争う。
(三) 同5(三)の事実は否認し、主張は争う。
(四) 同5(四)のうち、本件甲処分において廊下部分を二分の一の非課税としたこと、階段(避難階段)とパイプスペース部分を非課税としたことは認めるが、その余の事実はいずれも否認し(ホールは存在しない。)、主張は争う。
なお、本件ビル建築については、昭和五五年七月一〇日建築工事中止勧告、同年八月八日中止の再勧告、同年一一月七日建築基準法九条二項の事前通知及び同年一二月二六日同条一項の是正命令がそれぞれされている。
3 原告保土ヶ谷再開発の請求原因1ないし4記載の各事実はいずれも認める(但し、本件ビルの建築完成は昭和五六年一二月二一日である。)。
4(一) 同5(一)の主張は争う。
(二) 同5(二)の事実は否認し、主張は争う。
(三) 同5(三)のうち、本件乙処分において廊下部分を二分の一の非課税としたことは認めるが、主張は争う。
なお、本件ビル建築については、昭和五五年七月一〇日建築工事中止勧告、同年八月八日中止の再勧告、同年一一月七日建築基準法九条二項の事前通知及び同年一二月二六日同条一項の是正命令がそれぞれされている。
四 被告の主張
1 原告らの納税義務について
(一) 本件ビルは昭和五六年一二月二一日建築完成し、原告保土ヶ谷ビルが新増設にかかる本件甲家屋を、原告保土ヶ谷再開発が新増設にかかる本件乙家屋を、それぞれ建築主として取得した。
(二) 原告ら主張の都市再開発事業なるものが神奈川県知事の認可を受けていないことは、原告らの自認するところである。
したがって、本件ビルは都市再開発法二条六号の規定による施設建築物に該当せず、法七〇一条の三四第八項三号は適用されないから、新増設事業所税の課税を免れることはできない。
(三) また、本件甲家屋の床面積は法七〇一条の四三第三項所定の免税点に満たないが、以下の理由により、新増設事業所税の納付義務がある。
(1) そもそも事業所税なるものは、事業所が集積利益を求めて大都市に集中して都市機能が低下するのに伴い、当該地方自治体に新たな行政需要が発生することから、その財政需要を満たすために創設されたもので、事業を行う者の事業活動に税負担を求める「事業にかかる事業所税」と事業所として利用するであろう事業所用家屋の新増設により将来発生するであろう財政需要に備えて税負担を求める「新増設にかかる事業所税」とがある。
(2) このように、新増設事業所税は専ら事業所の新増設という客観的な行為を課税客体とするもので、事業活動の有無や当該事業所用家屋の所有関係にかかわらず、事業所用家屋一棟全体について課税を問うものである。
(3) したがって、新増設にかかる事業所用家屋について、その各部ごとにそれぞれ別々の建築工事請負契約が締結されている場合にあっても、当該事業所用家屋一棟を全体として把握し、その建築主全員に税負担を求めることが法の趣旨とするところであり、このことは、法七〇一条の三二第五項(租税回避行為の防止としての特殊関係者に対する課税措置)との対比からも明らかで、仮に、原告保土ヶ谷ビルが主張するように、建築工事請負契約の対象部分ごとに床面積を算定して免税点の判断をするなら、財政需要を来す事業所用家屋の新増設がありながら、税の負担を容易に免れるというゆゆしき事態を招来することとなる。
(四) さらに、四階部分は事業所であるから、同部分についても新増設事業所税は課税される。
すなわち、四階部分の各戸は、居住用部分である五階以上の各戸と床面積が同じであるのに、五階以上の各戸に見られる家庭生活を営むための機能別設備(居間、応接間、納戸、押入等)や様式別設備(和室、洋室等)がなく、分譲価格も高額で事業所として建築されたことが明らかであり、現に事業所として使用されているばかりか、居住用家屋として必要とされる建築基準法施行令一二一条三項所定の直通通路までの距離が不足しているところ、これに代るべき「避難上有効なバルコニー」もPタイプと名付けた一部屋以外には付設されていない。
2 本件甲処分及び本件乙処分(以下「本件各処分」という。)の根拠
(一) 新増設事業所床面積等の算定
(1) 床面積の算定について法は何ら規定をしていないが、建築物の床面積は建築物の各階又はその一部で、壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積によりこれを算定する旨建築基準法施行令二条一項三号で規定されていることからすれば、本件各床面積の算定も右方法ですべきである。
(2) 本件甲家屋及び本件乙家屋(以下「本件各家屋」という。)の新増設事業所床面積、非課税床面積及び課税床面積の内訳は別表一ないし五及び別図一ないし五記載のとおりであり、各床面積は原告ら提出の各図面と被告の現地調査の結果に基づいて算定した。
(3) 仮に、本件乙家屋について、原告保土ヶ谷再開発主張の床面積が正しいとしても、本件乙処分は同原告の提出図面等によってされ、本件訴訟の当初においても本件乙処分における床面積で争いがなかったところ、その後長期間経過した後に原告保土ヶ谷再開発から右訂正の主張がされ、しかも、同原告は既に昭和五六年七月二三日に本件乙申告の面積と異なる床面積をもって本件乙家屋の登記手続をしていることからすれば、右床面積の相違を確知できなかった同原告には重大な過失があるというべきで、右訂正の主張自体時期に後れた主張である上、法二〇条の九の三によれば、床面積の計算の誤りは納付期限(本件では昭和五八年七月三日)から一年以内の請求でのみ許されるのであるから、以上を総合すると、原告保土ヶ谷再開発の右主張は信義則違反又は禁反言の原則により許されないものである。
(二) 非課税床面積
(1) 非課税部分の位置、床面積、非課税とする理由及び根拠法条は、別表一ないし五及び別図一ないし五記載のとおりである。
(2) パイプスペース及び避難階段は全部非課税とし、昇降機の部分(エレベーターシャフトではない)及び廊下は二分の一の非課税とした(なお、三階部分にホールは存在しない。)。
(3) 法七〇一条の三四第四項二号により非課税とされる防災に関する施設又は設備は、政令に定めるものに限られるところ、避難通路についていえば、令五六条の四三第三項五号イにより、指定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路でスプリンクラー設備の有効範囲内に設置するものであることが必要である。
これをさらに指定都市である横浜市の横浜市火災予防条例によってみると、その六三条により、百貨店等(同条例二八条により、百貨店、マーケット、その他の物品販売業を営む店舗をいう。)の一の階又は地下街の物品販売を営む店舗にあっては、その売場又は展示場の床面積に応じて条例に定められた幅員の主要避難通路を設けなければならないとされているから、結局、右百貨店等に限って避難通路の非課税措置があり得るところ、本件各家屋はこれに該当しないから、右避難通路の非課税措置はあり得ない。
(三) 控除床面積
原告らが従前事業所用家屋を所有していたことはない。
仮に所有していたとしても、その取壊し後二年以上経過したことについて期間延長の許可を受けていないから法七〇一条の四一第三項の適用はなく、控除すべき床面積はない。 五 被告の主張に対する原告らの認否と反論
1(一) 被告の主張1(一)の事実は認める。
(二) 同1(二)は争う。但し、本件各家屋の完成取得日は先に主張のとおりである。
(三) 同1(三)は争う。事業所税は、事業所等において法人もしくは個人の行う事業又は事業所用家屋(家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のもの)の新築もしくは増築に対し、当該事業を行う者又は当該事業所用家屋の建築主に課するとされている(法七〇一条の三二第一項)が、家屋の全部又は一部を対象としており、被告が主張するように、事業所用家屋一棟全体について課税するものではなく、そのように解すべき法的根拠もない。
また、新増設事業所税の課税を受ける建築主とは、家屋に関する工事の請負契約の注文者又は請負契約によらないで自らその工事をする者をいい、課税の客体は、建築主が行った事業所用家屋の新増設行為であるから、一棟の家屋であっても、複数の建築主がその各部についてそれぞれ建築工事請負契約を締結して個々に事業所用家屋の新増設を行う場合には、各建築主の新増設面積ごとに課税がされるべきである。
なお、特殊関係者に対する課税措置の規定は、親族その他の特殊の関係のある個人又は同族会社に関するもので、原告保土ヶ谷ビルには適用されないから、この規定をもって被告の主張の根拠としうるものではない。
(四) 同1(四)は否認ないし争う。四階部分は居住用家屋として建築、販売されたもので、事業所用家屋ではない。
すなわち、本件ビルは、当初地下三階、地上一〇階建てとして予定されていたものが、その後の設計変更によりうち一層が削減されたところ、上部七層は既に居住用部分として分譲販売するものとして販売活動を行っていたため、七層分を居住用として確保する必要があり、旧三階部分を事業所用から居住用に変更したもので、四階部分の各戸は、玄関、ダイニングキッチン、洗面所、浴室等、人が日常生活を営むための構造と設備を備えており、バルコニー部分を居室に取り入れて床面積を広くしているため、五階以上の各戸と比較して分譲価格が高額となっているが、居住用家屋である点において、双方に基本的相違はない。
また、四階部分の各戸には、居室から有効な開口部(七五センチメートル×一二〇センチメートル以上開口できる窓、扉等)が備えられ、これにより「避難器具に容易に到達できる構造のもので、設置した避難器具を使用して避難できる状況にあること(建築基準法施行令一二六条の六の準用)」という条件を満たしているので、バルコニーがなくとも、被告主張の同令一二一条三項違反はなく、この点は関係庁の確認を得ている。
なお、現に四階部分が事業所として使用されているとしても、居住用家屋の分譲後に取得者がこれを事業所として使用することは自由であって、原告保土ヶ谷再開発の関知するところではないから、右をもって四階部分が事業所用であるとする根拠とはならない。
2(一) 同2(一)のうち、本件における各床面積の算定が被告主張の方法ですべきものであることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。
新増設事業所税の課税が建築された事業所用家屋の実測床面積に基づいてなされるべきは当然であるところ、本件乙処分において算定された床面積はいずれもこれと相違している。
(二) 同2(二)、(三)の主張は争う。
第三証拠の提出、援用及び認否<省略>
理由
一 原告保土ヶ谷ビルの請求原因1ないし4、及び原告保土ヶ谷再開発の請求原因1ないし4記載の各事実(但し、いずれも本件各家屋の完成日の点を除く。)はいずれも各当事者間に争いがない。
二 そこで、本件各処分の違法の有無について、以下に判断する。
1 本件ビルが都市再開発法二条六号に準拠する施設建築物で非課税であるとの主張について
(一) まず、地方税として課税される税のうち、事業所税は、事業所が大都市に集中して都市機能が低下することに伴い、都市環境を整備、改善する必要が生じ、当該地方自治体に新たな行政需要が発生することから、これを満たすために創設された目的税であり、事業を行う者の事業活動に税負担を求める「事業にかかる事業所税」と事業所として利用するであろう事業所用家屋の新築又は増築に税負担を求める「新増設にかかる事業所税」とに区分されている。
(二) そして、法は、事業所税創設の趣旨目的あるいはその性格に照らして事業所税を課すべきでないと考えられる事業所等について、非課税の措置をとっており、都市再開発法による市街地再開発事業によってされる同法二条六号に規定する施設建築物で事業所等の用に供するものの新築についても、法七〇一条の三四第八項三号において、新増設事業所税を課すことができない旨定めている。
(三) このように、都市再開発法二条六号に規定する施設建築物について、新増設事業所税を非課税とした趣旨は、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る目的で施行される都市再開発法上の市街地再開発事業を推進するという政策目的によることはもとよりとして、当該事業所の新築に伴う新たな行政需要を予定した種々の施策が同事業に組み込まれて実施されることから、重ねて課税をする根拠に欠けるとして、課税を免じたものと解される。
(四) したがって、右法七〇一条の三四第八項三号による非課税措置は、都市再開発法に基づく市街地再開発事業として、行政庁の審査を受け、都市再開発法の求める行政目的に合致することが認証された場合に限ってこれを非課税とするものであるというべきところ、原告ら主張の開発事業について神奈川県知事の事業認可が得られず、右事業が都市再開発法に基づく市街地再開発事業に該当することなく終了したことは、原告らも自認するところであって、本件ビルが同法二条六号に規定する施設建築物に該当しないことはいうまでもないところであるから、本件ビルについて右法七〇一条の三四第八項三号による非課税措置を受けられないこともまた明らかである。
(五) 原告らは、本件ビル建築に至る経過をもって、本件ビルが都市再開発法二条六号に規定する施設建築物に準じるものであると主張するが、仮に主張のような経過があったとしても、これをもって都市再開発法の求める行政目的に合致することについて行政庁の審査、認証を得ていない事業について当然に都市再開発法に基づく市街地再開発事業と同視するということは到底首肯しがたいところであり、本件全証拠によっても他にこれを非課税とすべき事由は認められないから、右主張は採用の限りでない。
2 本件甲家屋の床面積が免税点以下であるとの主張について
(一) 新増設事業所税の課税標準は、法七〇一条の四〇第三項により新増設事業所床面積とされ、この新増設事業所床面積は、法七〇一条の三一第一項六号、令五六条の一八により、新築又は増築にかかる事業所用家屋の延べ床面積をいうものとされている。
そして、建築基準法施行令二条一項三号、不動産登記法施行令八条の規定によると、建築物の床面積は、建築物の各階又はその一部で、壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積によりこれを算定することとされていることからすれば、本件各床面積の算定も、右の方法ですべきものである(以下の判示における床面積の算定はいずれもこの方法によるものである。)。
(二) もっとも、法七〇一条の四三第三項は新増設事業所床面積が二〇〇〇平方メートル以下であるときは新増設事業所税を課することができない旨規定しており、本件甲家屋の床面積が二〇〇〇平方メートル以下であることは当事者間に争いがないから、本件甲家屋が免税とされるのか否かについて検討する必要がある。
(三) そこで検討するに、まず、法七〇一条の四三第三項は、増築の場合に、当該増築をした日前二年以内に行われた同一建築主の新築又は増築と当該増築を併せて免税点の判断をする旨定め、新たな行政需要の発生という観点に則して二年以内に行われた同一建築主の新築又は増築を一つのものとして把握するとともに、建築行為を数回に分ける方法で課税を免れることを防止しているものの、複数の者が共同して一棟の事業所用家屋の新築又は増築をする場合について課税の対象とすべきであるか否かについては法文の規定するところだけをもってしては必ずしも明確ではない。
しかしながら、前記のとおり新増設事業所税は事業所用家屋の新築又は増築による事業所の増加に伴って発生する新たな行政需要を満たすために創設された目的税であるから、複数の者が一棟の事業所用家屋の新築又は増築をする場合についても、右の新たな行政需要の発生という観点から課税の可否を判断することが法の趣旨に合致するものというべきところ、複数の者が一棟の事業所用家屋を新築する場合、右の新たな行政需要の発生は、まさしく一棟の事業所用家屋の新築それ自体にかかるものであり、しかも、一棟の事業所用家屋の個々の取得部分ごとに建築主が異なる場合であっても、個々の取得部分は右一棟の事業所用家屋と別個独立に存在するものではなく、建築主全員において右一棟の事業所用家屋の新築という一個の行為を共同でしたものといえるから、法一〇条の二が、共同事業、共同事業により生じた物件又は共同行為に対する地方団体の徴収金は納税者が連帯して納付する義務を負う旨定めて、共同行為の場合に納付義務の観点から徴税の確保を図っていることと同様に、複数の者が一棟の事業所用家屋を新築する場合における新増設事業所税の免税の可否も、一棟の事業所用家屋の新築を全体として把握して判断すべきものと解するのが相当である。
法七〇一条の四三第三項が二〇〇〇平方メートル以下の床面積の場合に新増設事業所税の免除を規定した趣旨も、中小の事業者に対する課税を避けることもさることながら、右床面積以下の事業所用建築物の新築又は増築にあっては新たな行政需要の発生自体が少ないと予想されることから、新たな行政需要の発生が大きいと予想されるものに課税対象を絞ったものと見ることができるのであって、一棟の事業所用家屋の新築を全体として把握して免税点の判断をすることは何らその趣旨に反するものではない。
以上によれば、複数の者が一棟の家屋を新築した場合には、新たな行政需要の発生という観点から、右一棟の家屋のうちの事業所用家屋の延べ床面積によって免税点の判断をすべきところ、本件において本件甲家屋の床面積は二〇〇〇平方メートルに満たないものの、本件乙家屋の床面積と併せると本件家屋の新増設事業所税の申告、納付すべき日(後記)において右免税点を越えることは後に認定のとおりであるから、結局本件甲家屋の床面積が免税点以下である旨の原告保土ヶ谷ビルの主張は理由がない。
なお、証人竹内康夫の証言によると、本件ビルの建築は原告らほか一名の共同行為であるから、本来は法一〇条の二により連帯して納税する義務を負うものであるが、被告において税の徴収に支障がないとして個別に新増設事業所税の申告、納税をさせたもので、その点に瑕疵は存しない。
3 本件各申告が無効であるとの主張について
以上判示したところによれば、本件各家屋が非課税もしくは免税であるとする原告らの主張にはいずれも理由がなく、証人竹内康夫の証言及び原告ら各代表者尋問の結果によっても、本件各家屋について課税は免れない旨被告から説明と指導を受けた原告らにおいて、納税義務の点に不満はあったものの、結局のところ任意に本件各申告をしたと認められるのであり、他にその意思に反して申告を強制されたものと認めるに足りる証拠はないから、被告が本件各申告を強制したとしてその無効をいう原告らの主張も採用できない。
4 四階部分の事業所性について
(一) 新増設事業所税は、事業所用家屋の新築又は増築を課税客体として、当該事業所用家屋の建築主に課せられる税である(法七〇一条の三二第一項)が、ここに事業所用家屋とは、家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のものをいうとされており(同条の三一第一項七号)、人の居住の用に供するもの以外のものであるか否かの点は、当該家屋の構造、設備等において人の居住の用に供するものであるかどうかにより判断すべきものであり、そのいずれにも使用し得るような構造、設備を具えている場合においては、建物全体の地理的条件、構造、建築者、設計者の建築の意図等も総合的に判断してそのいずれを主としているかによって判断すべきものと解される。
そして、右の判断は新増設事業所税の申告納付をすべき日における当該家屋の現況をもってされるべきものと解されるところ、昭和五八年法律第一三号による改正前の法七〇一条の四八によると、事業所用家屋の新築又は増築をした日から一月以内に新増設事業所税の申告、納付をすべきものとされているから、右新増設事業所税の申告納付すべき日とは、当該事業所用家屋の新築又は増築をした日から一月後の日をいうものと解される。成立に争いのない乙A第五号証(工事完了届け)によると、本件ビルの建築が完了したのは昭和五六年一二月一五日であると認められるから、本件各家屋の新増設事業所税の申告、納付すべき日は右の日から一月後の同五七年一月一五日である。
なお、本件ビルの建築は原告らの共同行為にあたるから、本件各家屋は本件ビルの建築完成日をもって新築されたというべきところ、原告ら主張の建築完成日は単に本件各家屋の不動産登記簿上記載された新築日をいうに過ぎないから採用しがたい。
(二) 次に、成立に争いのない甲B第四、第五号証、第六号証の一ないし八、乙B第三号証の五、第四ないし第七号証、第八号証の一ないし三、証人竹内康夫の証言及び原告ら各代表者尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。
すなわち、本件ビルは、当初地下三階、地上一〇階建ての建物として設計され、地下三階から二階までの五層を建築主が取得し、三階から一〇階までの上部八層について、四階以上を住宅、三階を事務所として、それぞれ分譲する計画であったものが、その後の設計変更により地下二階、地上一〇階建ての建物として建築完成され、地下二階から三階までの五層を建築主が取得し、四階から一〇階までの上部七層を分譲することに変更されたため、当初事務所として分譲することを予定していた部分がなくなったことから、購入予定者の希望もあって、当初五階以上と同様和式間取りの住宅として設計されていた四階部分を、洋間で間仕切りのないいわゆるワンルームマンション形式に変更し、バルコニーとして予定をしていた部分も部屋の一部に取り込むなどして住宅から事務所としての使用に適合するように仕様変更したため、室内にダイニングキッチン、洗面所、浴室等、人が日常生活を営むために必要な一応の構造と設備を残してはいるものの、四階部分の各戸は五階以上の各戸と仕様を大きく異にすることとなり、本件ビルの外観上も、バルコニーのある五階以上とバルコニーのない四階以下とで明確に二分され、四階部分と三階以下の診療所、銀行等事務所用の層とはビルの外観上全く変わらない状況になった。
こうして四階部分は事務所として仕様変更され、現実にも事務所として分譲されたが、当初一二戸の予定であったところ、二戸が他と合併されたため一〇戸となり、昭和五七年一月一五日頃にはこのうち八戸について入居が完了し、一部は居宅として登記されていたものの、いずれについても住民登録はなく、全てが事務所として使用されていた。
また、本件ビルは、JR横須賀線保土ヶ谷駅から約三〇メートルの好立地条件下にあり、三階以下の部分には宴会場(地下二階)、飲食店(地下一階)、スーパーマーケット(一階)、銀行(二階、三階)及び診療所(三階)が入居している。
(三) 右事実によってみると、四階部分は、当初こそ居住用として設計され分譲が予定されていたものの、事務所として分譲する予定であった旧三階部分がなくなったことから、旧三階部分に代わるものとして、事務所用に手直しされているもので、建築図面上も事務所とされ(前掲乙B第三号証の五の平面図に記載された四階各戸の収容人員数は居住する人員数としては格段に多数である。)、現実にも事務所として販売用の広告をし分譲されているのであって、四階部分が事務所として建築されたものであることは明らかである。
したがって、四階部分は居住用ではなく事業所用と認めるべきものであるから、新増設事業所税の課税対象となるべきものである。
原告保土ヶ谷再開発は、四階部分の各戸が日常生活を営むための構造と設備を備えており、居住用家屋である点において五階以上の各戸と基本的相違はないから、居住用家屋である旨主張し、原告ら各代表者尋問の結果にもこれに沿うがごとき趣旨の供述が存するが、日常生活を営むための構造と設備を備えているとしても、その他の構造、設備等に照らして事務所としての機能を備え、事務所としての使用を目的として建築されたことが認められるのであれば、これを事業所用家屋と認定するにいささかの支障もないのであって、前認定事実のもとでは、右の原告ら各代表者尋問の結果及び原告保土ヶ谷再開発の主張は採用するに由ないものといわなければならない。
(四) なお、新増設事業所税は、事業所用家屋の新増設を課税客体として、当該事業所用家屋の建築主に課せられる税であるから、当該事業所用家屋の全部が直ちに分譲されるもの(処分床)であるからといって、当該建築主が取得した固有の部分ではないとして新増設事業所税の課税を免れることはできないのであって、この点の原告保土ヶ谷再開発の主張にも理由がない。
5 本件各処分の課税根拠について
(一) 新増設事業所税の課税標準は前記のとおり新増設事業所床面積とされているが、法七〇一条の三四第四項において右新増設事業所床面積のうち新増設事業所税を課すことができない床面積(以下「非課税床面積」という。)を規定しているので、課税標準となる床面積は、右新増設事業所床面積から非課税床面積を控除した床面積(以下「課税標準床面積」という。)をいうものと解される。
(二) 新増設事業所床面積
(1) 成立に争いのない甲A第二号証の二、乙A第二、第三号証及び証人竹内康夫の証言によると、本件甲家屋の新増設事業所床面積は八三六・七六平方メートル(位置と内訳は別表一及び別図一記載のとおりである。)であると認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 成立に争いのない甲B第二号証の二ないし五、乙A第三号証、乙B第三号証の一ないし五及び証人竹内康夫の証言によると、本件乙家屋の新増設事業所床面積は、地下二階七〇三・五二平方メートル、地下一階七七四・七一平方メートル、一階七五九・七九平方メートル、四階八三六・七四平方メートルの合計三〇七四・七六平方メートル(位置と内訳は別表二ないし五及び別図二ないし五記載のとおりである。)であると認められる。
原告保土ヶ谷再開発は、本件乙家屋の実測床面積が右と異なる旨主張し、証拠として甲B第七号証の一ないし三(三浩一級建築士事務所作成の地下二階、地下一階及び一階の各床面積求積図)を提出しているが、証人竹内康夫の証言によると、乙A第三号証の床面積求積図は、本件ビルを調査した同証人の求めにより、本件ビルの工事監理者である増田浩志一級建築士が提出した図面であり、同証人は現地調査して本件乙家屋と同図面との符合性を確認していると認められるのであるから、右床面積求積図を排訴すべき理由はなく、これが不正確であるとする格別の根拠も見当たらないから本件ビル建築後相当年数を経過した後に作成提出された図面である甲B第七号証の一ないし三を採用すべき理由は見い出しがたいところである。
したがって、右証拠は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、原告保土ヶ谷再開発の右主張もまた採用できない。
(三) 非課税床面積
(1) 成立に争いのない甲A第二号証の二、乙A第二、第三号証及び証人竹内康夫の証言によると本件甲家屋の非課税床面積は一四四・四一平方メートル(位置、内訳及び根拠法条は別表一及び別図一記載のとおりである。)であると認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 成立に争いのない甲B第二号証の二ないし五、乙A第三号証、乙B第三号証の一ないし五及び証人竹内康夫の証言によると、本件乙家屋の非課税床面積は、地下二階一八三・一二平方メートル、地下一階一一一・八九平方メートル、一階二一三・三九平方メートル、四階七四・八三平方メートルの合計五八三・二三平方メートル(位置、内訳及び根拠法案は別表二ないし五及び別図二ないし五記載のとおりである。)であると認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) 原告保土ヶ谷ビルは、本件甲家屋の階段、ホール、エレベーターシャフト、パイプスペース等は本件ビルの共用部分であって主として四階以上の住宅部分の使用に供するものであるから非課税である旨主張するが、右部分(但し、エレベーターの前の空間部分は各室から階段に通じる廊下部分に過ぎないものであり、他にホールの存在はこれを認めるに足りる証拠がない。)は四階以上の住宅部分の用に供されていると同時に本件甲家屋の用にも供されているのであるから、事業所の床面積として算入するのは当然であり、前記のとおりこのうち階段(避難階段に該当する。)とパイプスペースについては非課税とされるべきものの、昇降機の昇降路の部分(エレベーターシャフトではない。)については二分の一の非課税とされるに過ぎないものである。
(4) また、原告らは、本件各家屋の廊下部分はいずれも令五六条の四三第三項五号イの避難通路に該当するから全部非課税である旨主張するが、法七〇一条の三四第四項二号により非課税とされる防災に関する施設又は設備は、政令に定めるものに限られているところ、避難通路については、令五六条の四三第三項五号イにより、指定都市等の条例の規定に基づき設置する避難通路で、スプリンクラー設備の有効範囲内に設置するものであることを要する。
成立に争いのない乙A第一号証によると、指定都市である横浜市の横浜市火災予防条例六三条において、百貨店等(同条例二八条により、百貨店、マーケット、その他の物品販売業を営む店舗をいう。)の一の階又は地下街の物品販売を営む店舗にあっては、その売場又は展示場の床面積に応じて条例に定められた幅員の主要避難通路を設けなければならないとされているから、結局、右百貨店等に限って避難通路の非課税措置の適用があり、他にその適用される場合の定めは認められないところ、本件甲家屋は右百貨店等に該当しないこというまでもないから、右避難通路としての非課税措置を受けることができないことは明らかであり、この点の原告らの主張も理由がない。
(四) 控除床面積
原告らは、原告らが従前所有していた事業所用家屋を取り壊したのは昭和五四年一月一〇日であるところ、横浜市の一連の違法な行為により本件ビルの建築工事が同五五年七月一〇日から同五六年五月一〇日頃までの約一〇か月間停止し、法七〇一条の四一第三項に定める二年の期間は右期間中停止されたというべきであるから、右法定期間の終期は同五六年一一月一〇日となり、それ以前に本件各家屋を新築取得した原告らは、右法の規定による従前の事業所用家屋の床面積の控除を受けられる旨主張している。
しかしながら、法七〇一条の四一第三項は、従前の事業所用家屋の取壊しがされた時から二年以内に新築又は増築された場合に従前の事業所用家屋の床面積を新増設床面積から控除する旨規定しているところ、事業所用家屋の新築又は増築に二年以上を要するなど、これを延長することにつき止むを得ない事情があると認められるときには、納税義務者の申請に基づき指定都市等の長において相当な期間延長することが認められている(同項)のであるから、原告らとしてはまず右所定の方法により期間の延長を求めるべきであり、このように所定の方法が定められているにもかかわらずその方法をとることなく右所定期間を経過した(この点は原告らが自認するところである。)以上、主張のような事情があったからといって原告らにおいて主張の控除を受けることはできないものというべきであって、法七〇一条の四一第三項所定の期間の進行が停止されるべきである旨の原告らの主張は採用しがたい。
したがって、本件各家屋について、控除床面積はいずれも〇平方メートルである。
(五) ところで、新増設事業所税の税率は法七〇一条の四二第二項により一平方メートルにつき六〇〇〇円であるから、これにより各税額を計算すると、左記のとおりとなる。
(本件甲家屋)
新増設事業所床面積 八三六・七六平方メートル
非課税床面積 一四四・四一平方メートル
控除床面積 〇平方メートル
課税床面積 六九二・三五平方メートル
税額 四一五万四一〇〇円
(本件乙家屋)
新増設事業所床面積 三〇七四・七六平方メートル
非課税床面積 五八三・二三平方メートル
控除床面積 〇平方メートル
課税床面積 二四九一・五三平方メートル
税額 一四九四万九一八〇円
6 したがって、右と同一の本件各処分は正当であり、その算定に違法の点は認められない。
三 よって、本件各処分に違法はなく、原告らの各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 川上正俊 宮岡章 竹田光広)
物件目録
一 横浜市保土ヶ谷区岩井町一一番地一
鉄筋コンクリート・鉄骨鉄筋コンクリート造
陸屋根地下二階付一〇階建
一階 八一七・九六平方メートル
二階 七六五・二〇平方メートル
三階 八三九・二五平方メートル
四階 八三九・二五平方メートル
五階 七五九・〇四平方メートル
六階 七五九・〇四平方メートル
七階 七五九・〇四平方メートル
八階 七五九・〇四平方メートル
九階 七五九・〇四平方メートル
一〇階 七五九・〇四平方メートル
地下一階 七二四・一二平方メートル
地下二階 七一五・二〇平方メートル
以上
別表一~五<省略>